私たちの体や物質を構成している原子は、中心に正の電荷を持つ原子核があり、
その周りを負の電荷を持つ電子が回っています。原子核は陽子や中性子から
できています。この陽子や中性子はクォークやグルーオンという素粒子で
構成されており、クォークに6種類あることやCPの破れという現象を理論的に
予言した小林・益川理論が2008年のノーベル物理学賞を受賞しました。
一方、電子やミューオン、ニュートリノはレプトンと呼ばれる素粒子で、
特にニュートリノは電気的に中性で重さもほとんどなく、私たちの体も地球も
簡単に通り抜けてしまうため、観測することが非常に難しい素粒子です。
しかし、カミオカンデ実験が1987年に超新星爆発によって放出されたニュートリノ
を発見し、さらに太陽内部の核融合反応で生成される太陽ニュートリノを
直接観測することに成功したことにより、2002年に小柴先生がノーベル物理学賞
を受賞しました。
カミオカンデ実験の成功を受けて、1996年から スーパーカミオカンデ実験
(以下SK) が開始しました。 SKは大気ニュートリノの観測データから1998年に
ミューニュートリノがタウニュートリノに変化するニュートリノ振動の証拠を発見し、
ニュートリノに質量があるという素粒子の標準理論を超えた結果を世界で初めて
発表しました。さらに、2001年には太陽電子ニュートリノもミューニュートリノへ
振動している証拠を、カナダのSNOとともに突き止めました。これらの成果は、
2015年の梶田先生とマクドナルド先生のノーベル物理学賞受賞につながりました。
福田研究室では、SKで観測した太陽ニュートリノのデータから地球物質による
ニュートリノ振動による昼夜効果(ミューニュートリノから電子ニュートリノに
再振動する効果)の研究や、超新星爆発にともなうニュートリノバーストの観測を
行っています。一方、東海村にある J-PARCの50GeV(ギガ電子ボルト)の陽子シンク
ロトンロン加速器からつくるニュートリノビームをSKに向けて照射する長基線
ニュートリノ振動実験T2Kにも参加しています。 T2Kでは、2013年にミューニュー
トリノが電子ニュートリノに振動する第3のニュートリノ振動の証拠を発見し、
現在反ミューニュートリノビームを用いてレプトンセクターにおけるCPの破れや
質量階層問題の解決に取り組んでいます。更に、陽子崩壊の発見を目指すため、
SKの約20倍の大きさをもつハイパーカミオカンデ実験HKが2025年に実験開始を
予定しています(ほぼ確実!)。これらの実験への参加は大学院生に限られますが、
学部の学生の皆さんも計測機器の開発やエネルギー較正などで参加が可能で、
その貴重な体験を活かして教員としての素養を高めることができます。
一方、福田研究室では、研究室独自の研究としてニュートリノ振動の精密測定 と恒星進化を解明するためpp/7Be太陽ニュートリノを観測する実験 (IPNOS) の ためのInP半導体検出器やインジウムが溶解した液体シンチレータの開発や、 ジルコニウム96を用いたニュートリノの放出を伴わない二重ベータ崩壊により ニュートリノの絶対質量を観測する実験(ZICOS)のための液体シンチレータの開発や チェレンコフ光を用いた背景事象除去ソフトウエアの開発を行っています。 IPNOSはマクドナルド先生も注目しており、ZICOSはジルコニウム96を 二重ベータ崩壊の標的原子核として採用している世界中で唯一の計画です。 学部学生の皆さんは、これらの研究開発を通して、その成果を世界に発表する ことにより、学び続けられる優れた理科教員の素養を身につけることができます。